
悟空は、地球を飛び出すほど大きな冒険をする。その物語を描いた鳥山明は、愛知県の清須に暮らしていました。東京の出版社と日々言葉を交わし、身近な好きなものから着想を得る。清須と鳥山明の関係をたどると、世界的な作品の向こうに、一人の漫画家の仕事と日常が見えてきます。
01
なぜ東京へ移らなかったのか
鳥山明にとって清須は、生まれ育った地元です。有名になったあとも、出版社のある東京へ生活の拠点を移しませんでした。
その理由をうかがえるのが、1995年の『週刊プレイボーイ』インタビューです。この発言を紹介した日刊サイゾーの記事によると、鳥山は人混みを好まず、東京へ行きたいと思わなかったこと、一人暮らしにも気が進まなかったことを語っています。大きな理念を掲げて地方を選んだというより、まず、自分の性分に合う暮らしがあったのでしょう。[1]
ただ、地元で暮らすことは、編集者と離れて一人で作品を完成させることではありませんでした。そこには、東京とつながる濃いやり取りがありました。
02
仕事場は地元、編集者とは毎日電話
鳥山を見いだし、『Dr.スランプ』『ドラゴンボール』を担当した編集者が鳥嶋和彦です。鳥嶋は、担当した13年間、毎日欠かさず電話をしたと振り返っています。短い会話でも体調や、その時何に興味を持っているかを感じ取っていたといいます。[2]
鳥嶋が大学の公開講座で語った『Dr.スランプ』連載中の仕事は、アシスタント一人と毎週15ページを描き、原稿を航空便で東京へ送るというもの。いまのようにデータを送る働き方が一般的になる前から、地元の仕事場と東京の編集部を結んでいたのです。[3]
03
カンフー映画が、次の漫画の種になった
『ドラゴンボール』へつながる着想にも、仕事場で交わされた何気ない会話がありました。
鳥嶋の回想によると、『Dr.スランプ』に続く作品を模索していた頃、名古屋まで打合せに出向いても、よい案はなかなか見つかりませんでした。帰りの新幹線の時間が迫るなか、妻が話したのは、鳥山が映画を見ながら漫画を描くという習慣でした。[4]
何度も見ていたのは、ジャッキー・チェンのカンフー映画。鳥嶋は、その好きを漫画にしてみることを提案します。そこから生まれた『騎竜少年(ドラゴンボーイ)』は、のちの『ドラゴンボール』につながる作品になりました。
地元の仕事場にいながら、映画を通じて外の世界を楽しみ、その面白さを自分の漫画へ変えていく。清須を知る入口として心に留めたいのは、そんな創作の時間です。
04
地元に残る、本人の言葉
清須市立図書館が発行した「図書館だより」2018年12月号には、鳥山本人のインタビューが載っています。元アシスタントのまつやまたかしの展示が、取材のきっかけになりました。
そこに登場するのは、忙しくてあまり外出せず、時間ができれば睡眠を優先する人。模型づくりが好きな一面も語られます。連載時のアシスタントはいつも一人だったという答えからも、少人数で毎週の連載を支えていた仕事の姿が伝わります。[5]
このインタビューでは、『Dr.スランプ』のペンギン村に実在のモデルはないとも答えています。地元で暮らしたことと、町をそのまま漫画の舞台にしたことは別。清須の景色に作品の元ネタを当てはめるより、ここにいた人の言葉を読んでみると、町との距離が縮まります。
05
記憶に残る仕事場
2026年11月3日の毎日新聞は、鳥山明が自宅兼仕事場として使っていた清須市の建物で、同年10月に解体工事が始まり、報道時点で大部分が取り壊されていたと伝えました。元アシスタントのまつやまたかしさんは、多くの作品がここから生まれたと振り返っています。[8]
06
悟空を知る人が、清須を知るきっかけに
『ドラゴンボール』は、孫悟空とブルマが不思議な球を探す旅から始まり、仲間との修業や強敵との闘いへ広がる漫画です。1984年の連載開始から、アニメや映画を通じて世界の読者・視聴者に親しまれてきました。[6]
その作者が清須に残した仕事の一つが、市制20周年の記念ロゴです。ロゴをあしらった銘板は、清須市役所西館2階のエレベーターホールに設置されています。訪ねるなら、平日9〜16時の開庁時間と、祝日などの閉庁日を確認してから。[7]
新幹線の車窓で清洲城を見つけたとき、同じ清須に暮らしていた漫画家を思い出す。悟空の冒険を知っていた人が、作者の日常のあった町の名前も覚える。名古屋の隣の町が、知っている物語の生まれた場所として、少し身近に感じられるはずです。
出典・画像について
- 日刊サイゾー:1995年『週刊プレイボーイ』1月31日号の鳥山発言を紹介。原誌そのものは未確認のため、紹介記事を介した発言として記述。暮らしが性分に合っていたという読みは本記事の解釈です。
- エンジニアtype:鳥嶋和彦インタビュー(13年間の電話)
- デジタルハリウッド大学:鳥嶋和彦公開講座記録(毎週の制作・原稿配送)
- ITmedia:鳥嶋和彦が語る『ドラゴンボール』前身作の着想
- 清須市立図書館「図書館だより」2018年12月号、2〜3ページ
- ドラゴンボール公式:作品紹介
- 清須市:記念ロゴ銘板と市役所の案内/市役所へのアクセス・開庁時間(2026年11月4日確認)。
- 毎日新聞(Yahoo!ニュース配信):「ドラゴンボール」聖地に別れ 鳥山明さんの仕事場解体へ 愛知(2026年11月3日)。
事務所の写真:Asturio Cantabrio、2025年11月撮影。Wikimedia Commonsより、CC BY-SA 4.0。未加工。本記事は非公式で、公式提携を示すものではありません。
2026年11月5日確認。